Episode05_エコビレッジに惹かれて、スコットランドに移住

Contents
  • エコビレッジ・トレーニングに参加
  • フィンドホーンで感じたこと
  • 「1000万分の24」の奇跡
  • ヨーロッパに呼ばれている?
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エコビレッジ・トレーニングに参加

CTIジャパンの経営から退いた後、何をやるかは特に決まっていたわけではありませんでしたが、1つだけやってみたいと思っていたことがありました。それは、スコットランドにあるフィンドホーン*という場所で毎年1回行われる1ヶ月の「エコビレッジ・トレーニング」というプログラムに参加することでした。エコビレッジとは、その名前が示す通り、エコな暮らしを営むコミュニティのことですが、エコビレッジ・トレーニングでは、どうやってそのようなコミュニティをつくるかをいろいろな側面から学べることになっていました。

なぜそのトレーニングに参加したいと思ったかというと、そこで取り上げられることがコーチングの仕事をしている時に漠然と感じていた1つの疑問に対するヒントを提供してくれるのではないかと直感的に感じたからです。その疑問というのは、次のようなものです。

すなわち、「コーチングというのは、相手の可能性を引き出すのに役立つ非常に優れたコミュニケーションの手法だが、結局のところ、世の中のしくみがそこに生きる人たちの可能性を引き出すようなものにならなければ、どこかで限界にぶち当たるのではないか」というものです。

言い換えれば、「人の可能性が最大限に発揮される社会とはどのようなものか?」という問いが自分の中にずっと横たわっていたわけです。

*フィンドホーン・・・1962年にアイリーンとピーターのキャディ夫妻および友人のドロシー・マクリーンによって創設されたスコットランドの北方にあるコミュニティ。もともとはスピリチュアルなコミュニティの色彩が強かったが、最近は世界を代表するエコビレッジとしてもその名を知られるようになった。

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フィンドホーンで感じたこと

実際に、フィンドホーンを訪れ、エコビレッジ・トレーニングに参加してみると、少しずつ自分が直感で感じていたことの正体が見えてきました。フィンドホーンでは、自分たちが食べるものは自分たちでつくり、自分たちが必要とするエネルギーも自分たちでまかなうなど、基本的には外の社会に依存しない自立した暮らしを営んでおり、その運営の仕方もかなり民主的なものでした。

私は、以前から、「見えない依存が無力感を生み、その無力感こそが人の本領発揮を妨げる最大の要因」だと考えていて、だからこそコーチングを通して「自ら考え、自ら動く」ことの重要性を説いてきたわけです。しかし、フィンドホーンの人たちの暮らしを見ていて、同じように食やエネルギーなど、人が生きていく上で欠かせないものを知らないうちに他人任せにしてしまっていることがどこかで無力感を生み、人々から生きる力を奪っているのではないか、と考えるようになったのです。

では、どうすればそのような状態から脱することができるかという問いが次に出てくるわけですが、1ヶ月くらいいただけではさすがにそこまではわからず、この問いに対する答えを見出すのはしばらく先に持ち越されることになりました。

フィンドホーンのコミュニティセンター

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「1000万分の24」の奇跡

それはさておき、エコビレッジ・トレーニングに参加してから半年ほど経った2004年の秋頃、米国のCTIからあるメールが届きました。そこには、「今度トルコでCTIのプログラムを新たに提供することになったのだが、その最初のコースをリードしてみないか」と書かれていました。

CTIジャパンの経営から退く際に、CTIのコースはもうリードしないと先方には伝えていたので、なぜそんなメールが今さら送られてきたのかよくわからず、腹立たしい気持ちさえ感じました。

でも、落ち着いてその可能性に想いを馳せてみると、意外にも心の針が振れるのを感じ、何でやるのか自分でもよくわからないまま、引き受けることにしました。そうしたら、そこで信じられないようなシンクロが起こったのです。

実は、フィンドホーンのエコビレッジ・トレーニングで一緒だったトルコ人の女性と親しくなり、せっかくトルコに行くのであれば彼女にぜひ会いたいと思って連絡をとってみました。ところが、残念なことにその彼女はその時トルコを留守にしているということで、代わりに別の友人を1人紹介すると言われました。これも何かの縁だと思い、その紹介された人と現地で落ち合うべくメールのやりとりをしていたら、なんとその人は私がリードする予定だったCTIのコースに申し込んでいるということが発覚したのです!

1人しかいないトルコ人の友人にたまたま紹介された人が、1000万以上の人口を誇るイスタンブールの中で、定員がたった24人というそのコースに参加する確率というのはいったいどれくらいあるというのでしょうか? その信じられないようなシンクロが起きたことで、トルコに行くという選択をしたことが正しい選択であり、それにはきっと何らかの意味があるはずだという確信を持ちました。

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ヨーロッパに呼ばれている?

そのトルコでの仕事を終え、日本に帰国して数日しか経っていないある日、またしても米国のCTIから1通のメールが届きました。そこには、「今度スペインでも新しくCTIのコースを提供するのだが、その最初のコースをリードする予定だった人が急にリードできなくなったので、代わりにリードしてくれないか」と書かれていました。

トルコで起きたシンクロのこともあって、何かの流れを感じていた私はその依頼も引き受けることにしました。そして、スペインでリードしている最中のある晩、次の日に備えてベッドで横になっている時、突如としていろいろな想いが湧いてきて眠れなくなってしまいました。

トルコとスペインで立て続けにCTIのコースをリードしながら、私の中にはヨーロッパに対する何とも言えない郷愁のようなものが芽生えていました。私は子どもの頃、父親の仕事の関係で4年ほどイギリスに住んでいたことがあり、その時の感覚がこの2回のヨーロッパ訪問を通して懐かしさとともに鮮やかに蘇ってきたのです。

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極端に言えば、「自分はヨーロッパに呼ばれているのではないか」という感じさえしました。 その時にふと、フィンドホーンに移住するという考えが頭に浮かんだのです。そうすれば、エコビレッジ・トレーニングでつかみかけた、自分の問いに対する答えを見つけることができるかもしれない……。

そう思うと、もう居ても立ってもいられない気持ちになり、帰国早々、妻にその考えを話しました。

妻も以前からフィンドホーンに興味を持っていたので反対はしませんでしたが、その時はまだ娘が生まれたばかりだったので、「この子が1歳になるまで待って」と言われました。そして、2005年9月、ちょうど娘が1歳になる誕生日の日にフィンドホーンに移住することになったのです。

こうして、自分の内側および外側からのメッセージに導かれていった果てについにフィンドホーンに移住することになるわけですが、元を辿ると、それは1つの問いから始まりました。すなわち、「人の可能性が最大限に発揮されるような社会とはどのようなものか?」という問いです。この問いをずっと持ち続けていたことが、結果的に私の人生を大きく動かすことになったのです。

フィンドホーンの運営メンバーたちと/フィンドホーンの農園で娘と
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Key Message 正しい答えを求めるより、正しい問いを持つことが人生を豊かにする
Episode06_長い冬を乗り越えて、2つの市民運動と出会う