Episode02_人生を変えたコーチングとの出会い

Contents
  • 辿り着いたテーマは「天職創造」
  • 3人から薦められたコーチング
  • 2つの思い切った行動
  • 信じられないシンクロニシティ
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辿り着いたテーマは「天職創造」

留学先のCIISで専攻した組織開発・変容学は、簡単に言うと、「組織の中で働く人たちがいかに生き生きと働くか」を扱った学問ですが、1学期目、2学期目と過ごしていくうちに、自分の関心は組織をどうするかということよりも、人がどう生きるかということに移っていきました。そのきっかけとなったのは、2学期目に別の学部が提供していた“Live your values, and still pay the bills”(「自分らしく生きて、かつ生計も立てよう」というような意味)という風変わりな名前の授業をとったことでした。それは、それまでに受けたどの授業よりもワクワクするもので、困ったことにその授業を受けてから組織論に関する授業に対する関心がほとんどなくなってしまいました。

わざわざ会社を辞めてまで留学したのに、そこで選んだ学問に対する関心をこんなにも早く失ってしまったことに当惑しつつ、新たに芽生えた興味をどうやって追求しようかと考えていたところ、CIISには「インデペンデント・スタディ」という制度があるということを知りました。これは、自分で学習するテーマを決め、先生を誰にするかや教科書をどの本にするかを含め、自分で授業をデザインできるという、私のような状況に置かれた学生にとっては願ってもないしくみだったのです。そこで、私はその風変わりな授業を教えていた先生に無理やり頼み込んで、次の学期からこの制度を使って個別指導をしてもらうことにしました。

この頃から私は、いずれ日本に帰国したら、仕事に何らかの迷いを感じている人たちをサポートするような仕事がしたい、と強く思うようになっていました。折しも日本ではバブルがはじけ、日本企業が長らく維持してきた終身雇用制が崩れたことで、これからは自分のキャリアは自ら築いていかなければならないと言われ始めた頃でした。その急激な変化に戸惑っている人たちも多く、その状況に対して何かできることがあるのではないかと思ったわけです。そこで私は、インデペンデント・スタディという制度を活用しながら「どうしたら人は生き生きと仕事をすることができるか」をテーマに独自の研究を進めることにしました。そして、そのプロセスを通じて気づいたことを「天職創造」というコンセプトにまとめ、同時にそのコンセプトにもとづいたワークショップを開発することにしたのです。

CIISのクラスメートたちと/下宿先の自室にて

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3人から薦められたコーチング

ワークショップを開発しながら、私はこれだけでは不十分だと感じていました。というのも、仮にすばらしいワークショップができたとしても、それに参加してくれた人たちが生き生きと仕事ができるようになるまでのプロセスを継続的にサポートするしくみがなければ、ただ単に「楽しいワークショップだった」で終わってしまうのではないかと思ったからです。そこで、ワークショップ後も継続的なサポートをする上で効果的な方法はないかと思い、それについて機会があるごとにいろいろな人に話していたら、別々の機会に3人の人から「コーチングを勉強してみたら?」と言われたのです。

多くの人がそうであるように、私も最初に「コーチング」と聞いた時は、すぐにスポーツのコーチを連想してしまい、正直言ってあまりピンと来ませんでした。

しかし、さすがに3回も同じことを言われると、そのシンクロニシティ(意味のある偶然の一致)を無視するわけにもいかず、1995年の秋、彼らが共通して名前を挙げたThe Coaches Training Institute (略称:CTI*) という会社が提供するコーアクティブ・コーチング **の基礎コースに参加してみることにしたのです。すると、それは「まさに、これぞ自分が探していたものだ!」と思わず叫びたくなるほど自分が求めていたものにピッタリだったので、すぐにその場で次の応用コースにも申し込むことにしました。

*CTI・・・1992年にヘンリーとキャレンのキムジーハウス夫妻、そして故ローラ・ウイットワースの3人によって設立されたコーチ養成機関。現在、日本を含む世界20ヶ国以上でコーチング・プログラムおよびリーダーシップ・プログラムを提供しており、その参加体験型のトレーニングには定評がある。

*コーアクティブ・コーチング・・・CTIが提供するコーチング体系の総称。「コーアクティブ」とは「協働的」という意味で、コーチをする側と受ける側がともに対等な立場で、互いの持っている力を存分に発揮し合いながら、望ましい変化を一緒に創り出していく、という考え方や関わり方を表している。

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2つの思い切った行動

CTIの応用コースには、当時、フルフィルメント、バランス、プロセスという3つのコースがありました。そして、その先には半年間にわたる資格コースが待っていました。私は、最初の基礎コースを受けた瞬間から最後まで行きたいと思っていたのですが、貧乏留学生だった自分には、応用コースを受講するのが精一杯で、とても資格コースまで受講するだけのお金はありませんでした。

でも、どうしても行きたい。そこで、2つの思い切った行動を取ることにしました。1つは、CTIに手紙を書いて、奨学金を出してくれないかと依頼したこと。そして、もう1つは、会社勤めをしていた頃に営業でお世話になったあるソフトウエア会社の社長さんにお金を貸してもらえないかと依頼したことです。

その後ひと月以上、どちらからも何の返事もなかったので、「非常識なお願いをして怒らせてしまったのかな」と半ばあきらめかけていた頃、すでに申し込んでいた応用コースのうちの1つであるバランス・コースに参加しました。

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信じられないシンクロニシティ

当時、CTIはまだ創業まもない頃だったので、どのコースも3人の創設者が自ら教えていたのですが、コースが終わった後に彼らから呼ばれて控え室のようなところに入ると、「例の奨学金の件、今まで私たちはそんなことしたことがないのだけれど、あなたの熱意に免じて半額だけ出すことにしたわ」と言われたのです。もちろん、飛び上がるほどうれしかったのですが、まだ手放しで喜ぶことはできませんでした。というのも、半額だけではまだ資格コースに申し込むことができなかったからです。

あと半額をどうしたらいいか思い悩みながら、その日家に帰ってくると、電話が鳴っているのが聞こえました。慌てて受話器を取ると、なんと借金を依頼した社長さんからでした。

そして、「君に頼まれたお金をどうやって工面しようか考えていたので遅くなってしまったけど、いい方法が見つかったので君の銀行口座を教えてくれないか」とおっしゃるではありませんか!

依頼した両方から同じ日に前向きな返事が来るという信じられないシンクロニシティに、「これで資格コースに行けるぞ」という喜びと同時に、「これは何かが自分にコーチングを学べと言っているとしか思えない」という運命的なものを感じました。

3人からほぼ時を同じくしてコーチングを薦められたことも含め、こうしたシンクロニシティは、あたかも「それがあなたの進むべき道だ」と指し示してくれる道しるべのようなものではないか、とこの時思いました。そう思うと、なんだか身が引き締まるような、武者震いがするような気持ちになったのを今でもよく覚えています。

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Key Message シンクロニシティはその人が進むべき道を指し示す道しるべ
Episode03_出版をきっかけに、会社を設立