Episode01_会社を辞めて、アメリカに自費で留学

Contents
  • 5回受けて5回落ちた留学試験
  • 「人ありきの組織論」に心が動く
  • 想像とかけ離れていた授業風景
  • ふと浮かんだ突拍子もない考え
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5回受けて5回落ちた留学試験

私には学生時代の頃からずっと海外に留学したいという想いがありました。幸い、私が勤めていた会社には海外留学制度があったので、入社した次年度から毎年のように応募しました。まずは英語のテストと小論文の審査があり、それに通ると役員面接があって、それに合格した人が毎年1~2名会社のお金で海外の大学に留学することができました。

しかし、結果は5回挑戦して、5回とも不合格。5回のうち4回は最後の役員面接まで行ったのですが、ダメだった理由を尋ねると毎回のように言われたのが「君が留学したいという気持ちは伝わってくるが、なぜ留学したいのかがわからない」ということでした。それもそのはず、自分自身ですらそれがわからなかったのですから。なぜかわからないけど留学したい。理由は明確ではなかったけれど、留学したいという想いに嘘はありませんでした。

もちろん、適当な理由をつけることはできたでしょうし、何かしらのことは面接でも言ったと思いますが、やはりそれではとってつけたようになってしまい、百戦練磨の役員たちにとってはまったく説得力に欠けるものだったのでしょう。このままでは会社から行かせてもらうのは無理かもしれない。そんな考えが3回目に落ちたあたりから少しずつ自分の中に芽生え始めていました。

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「人ありきの組織論」に心が動く

そんなある時、担当していた営業の仕事を通じて親しくなったあるソフトウエア会社の社長さんに「実は留学したいと思っているんです」と話したことがありました。

すると、その社長さんは海外関係の事業をしている別の会社の社長さんを紹介してくれました。そして、その社長さんに自分の想いを伝えると、今度は留学サポートなどの仕事をしている人を紹介され、その人に会いに行くと「君と同じくらいの年齢の人で、今度留学しようとしている人がいるから会ってみたら?」とまた別の人を紹介されました。

最後に紹介されたその人にさっそく会いに行って話を聞いてみると、アメリカのサンフランシスコにあるCalifornia Institute of Integral Studies (略称:CIIS*)という名前を聞いたこともない大学で、組織開発・変容学(Organizational Development and Transformation)という、これまた聞いたこともない学問をその年の秋から専攻するつもりとのこと。

「それってどんな学問なんですか?」という自分の問いに対し、彼が言った「まず組織ありきの組織論ではなく、まず人ありきの組織論なんだ」という言葉に心の針が振れたのを今でもよく覚えています。その人はその後も折に触れて、その大学でどんな勉強をしているのかを親切に教えてくれました。そして、話を聞けば聞くほど、自分の興味が高まっていくのを感じたのです。

*CIIS・・・1968年にインド人哲学者のハリダス・ショードリ博士によって東洋哲学と西洋哲学を統合するための研究所として設立されたが、のちに大学となった。いわゆる「ニューエイジ系」の大学として知られ、哲学や心理学系の学科を中心に斬新な教育プログラムを提供している。

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想像とかけ離れていた授業風景

1993年の冬、どうしてもCIISをこの目で見たくなり、それまでにたまっていた有給休暇を使って渡米することにしました。そして、実際に授業を見学させてもらうことになり、ある教室に通されると、そこで目にした光景は私が想像していたアメリカの大学の授業とはあまりにかけ離れていたので思わず面喰ってしまいました。

私は以前、アメリカのある有名大学でMBAの授業を見学させてもらったことがあったのですが、その時目にした光景は、優に数百人は入りそうな大きな階段式の教室の前の方で、いかにも大学教授といった風情の威厳たっぷりの男の人が身振り手振りを交えながら話していて、これまたいかにも学生といった感じの若者たちが熱心に話に聞き入っている姿でした。

ところが、CIISで目にしたのは、小学校の教室くらいの小さな部屋に、老若男女が輪になって座り、全員が盛んに話している光景で、結局最後まで誰が先生なのかがわからないくらいでした。しかも、ただ見学しようと思っていたら、その輪の中に自分も加わるよう促されました。当時はまだ英語力が不十分だったこともあり、何を話しているのかほとんどわからなかったのですが、その輪の中に座っているうちに、不思議なことに自分が近い将来そこで学んでいるイメージが鮮明に浮かんできて、しかもそれがとても自然なことのように思えたのです。

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ふと浮かんだ突拍子もない考え

会社から行かせてもらえないのであれば、会社を辞めて自費で留学するしかないわけですが、いざその選択肢について考えてみると、やはり自分の将来について不安を覚えないわけにはいきませんでした。名のある大学でMBAの取得を目指すというのであれば卒業後に当時花形であった経営コンサルタントになる道も開かれていたでしょうが、誰も聞いたことがない大学や学科を出たところで、食べていける保証などまったくありません。

アメリカから日本に帰国し、そのまま年末年始の休暇に入ったある晩、ベッドの上で悶々と留学すべきか否かについて考えを巡らせている時、「そもそも、なぜ自分はこれほどまでに留学したいのだろうか?この想いはいったいどこから来たのだろうか?」という疑問が湧いてきました。

小学生の頃、父親の仕事の関係で4年ほどイギリスに住んでいたからとか、学生時代にワーキングホリデーという制度を使ってオーストラリアで1年ほど過ごしたからとか、もっともらしい理由を考えてみましたが、そういう経験がある人が皆、留学したいと思っているかといえば決してそんなことはありません。

サンフランシスコの象徴、ゴールデンゲートブリッジ

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では、どうしてなんだろう? その時、ふと突拍子もない考えが頭に浮かびました。それは、「もしかしたら、この『留学したい』という想いは天から与えられた贈りものなのではないか」というものでした。これといった明確な理由があるわけではなく、しかもそれをするには多大なリスクと困難が伴うにもかかわらず、それでもやりたいというのは、それが自分を超えたどこかから来ているとしか考えられなかったのです。

そして、続いてこう思いました。「もしこの『留学したい』という想いが天から与えられた贈りものだとしたら、自分の恐れからそれに従わないのは天に対する冒涜かもしれない」と。いわゆる宗教とはまったく縁がないにもかかわらず、なぜそう思ったのかいまだに不思議ですが、この考えが浮かんだことで、それまでの迷いが一気に吹っ切れていくのを感じました。そして、年が明けて帰国後初めて出社した日に、さっそく上司に辞意を伝えることにしたのです。

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Key Message 理由なく自分の中から湧いてくる「内なる声」は、天からの贈りもの
Episode02_人生を変えたコーチングとの出会い